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映画『THE GUILTY/ギルティ』低予算を発想で補った快作

映画『THE GUILTY/ギルティ』低予算を発想で補った快作

© 2018 NORDISK FILM PRODUCTION A/S

あなたは『THE GUILTY/ギルティ』という映画をご覧になっただろうか?

本作はグスタフ・モーラー監督・脚本、デンマーク発の新感覚サスペンス映画で、アメリカでは2018年1月、日本でも2019年2月22日に公開されてからというものの、じわじわとその人気を広げブームを巻き起こしつつある。

新宿武蔵野館で、近年の初日動員、興収記録を塗り替える大ヒットスタートを記録しており、海外ではサンダンス映画賞で『セッション』『search/サーチ』に続き観客賞を、米レビューサイト「ロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)」では驚異の観客満足度100%を獲得した。

ワンシチュエーションの低予算映画で「音声だけをたよりに誘拐事件の解決に挑む」という新奇な作風は、昨年の『カメラを止めるな!』の衝撃を彷彿させるものがあり、いま大注目の作品だ。

音だけの見えない映画『THE GUILTY/ギルティ』

ストーリーは、緊急指令室のオペレーター、アスガー・ホルムが電話から聞こえる声と音だけを手がかりに誘拐事件を解決していくというシンプルなもの。観客に与えられる視覚情報は極端に限定されており、見えるのは緊急通報指令室の中にいる主人公と数人の姿だけだ。

映画の主役は「サウンド」であり、観客は通報者である女性のおびえた声や、車のワイパー音、犯人の息遣いといった、かすかに聞こえる音声からさまざまな想像や推理を頭の中で巡らせ、主人公と一体になって事件の全貌を解き明かしていく、新感覚の体験型ムービーとなっている。

映像も見どころたっぷりな『THE GUILTY/ギルティ』

本作は、音声が主体となった作品だからこそ、映像づくりのセンスが問われるシビアな側面を持っている。空間と人物をきわめて限定した主人公の一人語りともいえる密室劇は、舞台芸術の世界では一般的な手法ではあるものの、それを映画で再現するとなるとさまざまな困難がともなうものだ。

同じ場所にいる一人の人物の顔を長時間にわたって観察し続けることは、ともすれば大きな苦痛を招くことにもなるからだ。『THE GUILTY/ギルティ』において、スクリーンに映し出されるのは、延々と通報者と話しつづけるアスガー・ホルムの姿である。

この密室劇という手法において、最も配慮が必要となるのは刺激の連続性であり、いかに「観客をあきさせずに集中させるか」という点につきるだろう。

本作は、微妙な明暗のコントラストで色調を変化させる照明や、視点の変化によって注意を喚起するカット割り、固定カメラによる鮮明な映像といったさまざまな撮影技術を駆使することで、その困難を見事に乗り越え、いまだかつてない映画体験を生み出すことに成功している。

その手腕は見事というよりほかになく、リメイク権をめぐってハリウッドで争奪戦が起きたのもうなずける傑作だ。

『THE GUILTY/ギルティ』は、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネリーブル梅田などで大ヒット上映中。映像づくりに関心のある人にこそ、その素晴らしさを実際に劇場で体感していだけると、とてもうれしい。

この記事を書いた人

ZOOREL編集部/コスモス武田
慶應義塾大学卒。大学時代から文学や映画に傾倒。缶チューハイとモツ煮込みが大好き。映画とマンガと音楽が至福のツマミ。

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