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映画のマーケティングってどうなってるの?

映画のマーケティングってどうなってるの?

映画広告の予算はどのように使われているのだろうか? 映画のマーケティングは非常に魅力的なトピックであるが、目に見えるところと見えないところが大きく分かれてしまっている。

今回は、『Stephen Fellows』より「How are movie advertising budgets spent?』を意訳でお届けする。ここではイギリスで2009年から2018年まで過去10年間に上映された1288本のデータを調べている。そこから見えたものとは?

映画の広告はいまだにテレビが一位

データ調査会社のニールセンによると、2017年に2億2,950万ポンド(約300億円)が映画のマーケティングに使われた。広告の露出先は以下の5つがある。

  • テレビ
  • 屋外 (ポスター、バスの横の広告、駅)
  • 出版 (雑誌や新聞の広告)
  • ラジオ
  • オンライン (バナー広告、ソーシャルメディアプロモーション、Webサイト)

2009年には、映画のマーケティングの58%がテレビ広告に費やされた。テレビは今ではオンラインなどに押され減少しているが、2018年には49%と未だにトップであり続けている。2番目に大きいのは屋外の広告で、2009年に22%を占め、2018年には28%に増加している。

反対に出版業界は苦しく過去10年間で10%から6%に縮小し、ラジオは同じ期間に約3%跳ね返った。当然のことながら、オンラインの広告は2009年の7%から2018年に15%と倍以上の成長を遂げている。

多くの映画制作者はテレビや屋外の広告と比較して、オンラインでの支出が少ないことに驚くかもしれない。私たちの生活は昔に比べてはるかにオンラインで生きているかもしれないが、映画の広告はまだほとんどオフラインなのだ。

映画のジャンルで違いはあるのか?

映画はディストリビューターが希望する独自のマーケティングプランがある。かけた費用に見あう結果が求められる。それでは各映画のジャンルによる違いはあるのだろうか?

テレビに最も依存しているジャンルはロマンス(総支出の57%がテレビ)で、ホラー(56%)、コメディ(55%)と続く。伝記のようなタイプの映画は、テレビマーケティングへの依存度が最も低く50%未満となっている。

ファンタジーやSF映画は、屋外でのマーケティングに力を入れている(それぞれ29%と28%)。これらのジャンルは壮大な世界観を出していきたいので「異世界」感を伝えたいがために屋外が強く、逆に、ロマンスや伝記映画は、よりパーソナルなアプローチを心掛けるため、屋外でのマーケティングの支出が最も低い(21%および23%)。

伝記のようなタイプの映画は新聞への支出も多い。映画を見に行くお客さんは、他のジャンルよりも年齢が高く、社会的地位も高い。新聞の読者と伝記映画の親和性は高い。また、この手のジャンルは、レビューなど映画の品質が高いことをアピールすることが大事だからだ。

反対にホラー映画はラジオに強い。おそらく、「音」は人々を怖がらせる強力な方法だからだろう。また、ホラーはオンラインでもトップに位置する。インターネット上のユーザーは他の広告メディアよりも若く社会的地位も高くないからと推測される。

何故未だにオフライン上の広告なのか?

とはいえ、オンライン上の広告は調査するのが最も難しい。つまり、方法によっては合計が大きく異なる可能性もある。それにもかかわらず、多くの業界ウォッチャーは、映画業界がオンラインに投資しているのではなく、より馴染みのある、または安全であると感じる古いフォーマットに依存していると感じている。

最近のアメリカでの70回の映画を調べたデータによると、興行収入の46%は(予算のわずか14%だった)オンライン広告によるものであったと結論付けた。それでもなお、オフラインの方が強いのである。

映画のマーケティングは興行収入と比較するとどうなのか?

映画の配給業者が宣伝に費やす予算はリリース前に決定される。したがって、映画が公開され興行収入がでるまでは、彼らはそれが効果的であるかわからない。

そこでイギリスの映画のうち、「マーケティングの見積もり」と「最終的な興行収入」がどのように関連づいたかを確認した。

結果、映画の10分の1以上が、興行収入よりもマーケティングの費用に多く費やすというさんさんたる結果が浮き彫りになった。

一見すると、他の約90%の映画が利益を上げていると推測できるが、実際の利益を計算するには税金(イギリスではVAT20%)と映画館の取り分を引く必要がある。

そこで映画館の取り分を50%と仮定し、税金と映画館の分を差し引いて計算すると、映画の40%は興行収入からマーケティング費用を返済することができていない。

さらに実際にはキャッシュフローの概念(マーケティング費用を先に支払う必要がある)、販売代理店に支払うお金などもあるので、実際はさらに金銭面では苦労することになる。

何故、それでもマーケティングに予算は投下される?

半数以上の映画がマーケティング費用を賄えないにもかかわらず多くの予算を投下するのは何故だろうか? それにはいくつかの理由がある。

大ヒットの可能性

映画業界は映画一本一本で着実な利益をあげるのではなく、多くの赤字映画と少数の大ヒットする映画によって成り立っている。新作が上映される度、大きな勝利を期待して「サイコロを振る」必要がある。

円盤、VODの可能性

マーケティング費用が高い作品は、VOD、DVD、Blu-rayといった、後に販売するプラットフォームでの視聴者を増やす可能性がある。これらは劇場で公開するよりもはるかに高い利益率がある。

特に映画をテレビで流すこと、オンライン上でのストリーミングプラットフォームにライセンスを付与するのは大きな利益となる。これらの取引の利益率は99%以上で、物が要らないので配送費用はほぼゼロであり、追加のマーケティング費用も必要ない。

契約上の義務

映画を制作したプロデューサーまたはスタジオからの契約上の義務により、一定レベルのプロモーション支出を行う必要がある。

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この記事を書いた人

ZOOREL編集部/黄鳥木竜
慶應義塾大学経済学部、東京大学大学院情報学環教育部で学ぶ。複数のサイトを運営しZOORELでも編集及び寄稿。引きこもりに対して「開けこもり」を自称。毎日、知的好奇心をくすぐる何かを求めて街を徘徊するも現在は自粛中。

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